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デワンカー・バート
いくつかの重要なポイントを五人の先生からの話でうけた。一つは洞海湾沿いの工業地帯には本当に全く緑がない。あとその地域性。北九州市のスペースワールド、小倉駅周辺は非常にきれいに作り直されているが、ただ、持っているものを少しずつなくしながら作り直している。そうではなくて、これからは持っているものを生かしながらもう一回景観をつくった方が、北九州らしくなると思う。僕はもう一五回以上北九州に来たが、門司・レトロ地区、伊の建築アルド・ロッシの建築等は、非常にきれいに、海岸線をうまく歩けるようなつくりになっている。それは北九州にとって非常に重要なところで、洞海湾沿いも同じようにきれいなところはいっぱいある。
僕は二、三週間前にシンポジウムの準備で写真を撮りに来たのだが、三菱化学工場の写真撮影が禁止されていたことは僕は知らなかった。こんなに素晴らしい景色なのに何故禁止なのですかと聞くと、秘密だからと言う。だけど、五メートル後ろに行くと敷地の外になるのだが、そこから撮るのは結構ですと言われた(笑)。そこで僕は五メートル下がってずうっと洞海湾の写真を撮りながら、歩いていた。その中にはポテンシャルがあり、残すべきものが非常に多い。ただ、そこへはなかなかアクセスできない。また、非常に緑は多いが、全部(工場の)敷地内で柵の中にある。せめてその柵の中の緑地だけへでも入れることは住民にとっても非常に重要なこと。もちろん、企業が稼働中で邪魔かもしれないが、海岸線を歩けるように、段階的に一部だけでも少しずつ開放しながら洞海湾沿いに入れるように整備して欲しい。一部の海岸沿いにはゴミがいっぱいあるけれど鳥が来ていた。ゴミをこのままにしろとは言わないが、こういう地帯の中でも自然回復が出来ている、別に今から計画を立てなくても長い間で少しずつ出来ている。
ただ、それを見に来る人は非常に少ない。なぜならばアピールできていないからである。北九州市が持っている資産はどこへもアピールされていない。ホームページには産業等は載せられているが、持っている緑、観光客、外国人を誘致するものは殆ど見られない。持っているものを生かし、もっと公開すべきだ。そこで僕は勝手ながら、洞海湾沿いについてを自分のホームページに公開している。時間が短くてまだあまりコンテンツが入ってないが、これから英語・韓国語も加えて増やしていきたい。
尾島 俊雄
バート君が言ってきたような、北九州の持っている価値、すばらしさ等に関する認識とか、その辺のところはまだまだこれからではないか。北九州市にはこんなに素晴らしい自然があって、こんなに素晴らしい産業資本の蓄積があることを私も五、六年前まで知らなかったのだが、知れば知るほど大変な場所だと言うことを気づき始めている。
井手 久登
都市、あるいは地域には二つの要素があり、一つはpowerの中心になるもの、もう一つはauthorityの中心になるものである。powerの中心とは、政治的な市役所、議会。authorityの中心とは宗教的な神社仏閣。欧州の都市でも市役所と教会は二つの厳然たる力として対峙している。我が国でもそういうものが長く続いている。また、我が国の場合では権威(authority)の中心の周りにはたとえば鎮守の森と言ったような必ず緑がある。そのような二つの要素が地域・都市には必ずあると思っていたが、どうも最近はpowerあるいはauthorityの内容がシフトしてきている。powerー権力というと少し言葉が強いが、政治的なものから経済的なものにシフトしてきているのではないだろうか。たとえばメッセといったものは中心の一つ。authorityの中心としては緑、また大学等もなるのではと私は考える。それから文化財的なもの、遺産も要素になる。地区のレベルから市のレベルそれぞれで、そうしたpowerとauthorityの両方の側面を常に持っていないといけない。
シドニーオリンピックのメイン会場は産業廃棄物処理場の跡地。かつて、産廃を垂れ流して大変公害がひどかった。そういう跡地を敢えて選んで会場にしたのだ。北九州市の中には周りに比べると多くはないが、ボタ山等あるいは産業廃棄物を敢えて対象にして、再生する、という環境回復産業というのであろうか、そうした仕事そのものを産業化することも、これからはあっていいのではないかと思う。
尾島 俊雄
バルセロナの会場もゴミの上だった。シドニーもそう。それなのに日本は海上(かいしょ)の森で万博をやろうという。何かズレているかもしれない。日本は何か価値観を変えなくてはいけない。
曽宇 泰子
北ドイツのブレーメンという街で港湾施設の再生計画に携わっていた。ご承知のように向こうでも船舶の輸送がだんだん減り、港湾施設が使われなくなってきたため、スペースパークというのをつくろうという案が出てきた。日本ではディズニーランドをはじめとしてテーマパークが盛んであり、北九州市にもスペースワールドがあることを聞いて、五年くらい前にこちらに来たことがある。港湾施設というのは産業上大事な施設であったためにインフラが整備されている利点がある。それを逆手にとり、環境に役立てていくやり方もあるのではとそのとき思ったことがある。
北九州市の地図をみて気づいたのは、紫川をはじめとして川が多く、実際には工業用水として汚れているかどうかは別としても非常に水に恵まれていること。先ほどの話のエムシャーパークのエムシャー川は非常に小さな川が、工業化に伴って全くの排水溝になってしまった。きれいなものとして象徴的に見えるのはそれと並行して走っている運河で、幅が広いしきれいで、景観としてもいい。だけれども、汚い排水溝だったエムシャー川を敢えてネーミングに使ったというのは、昔のきれいな小さな小川を汚してしまった環境を回復していこうという一つのメッセージだったという風に思う。
今まではオープンスペース等の計画は近い将来に採算が取れず、どうしても表に主張しにくい計画であった。やはりこれからの時代は、情報化が進み、必ずしも大都市に集中しなくてもどこにいても仕事が出来るようになってくる。すると環境を選んで人が住むとようになってくる。長い目で見ると、環境を良くしていくことがその土地の経済性にも深くつながってくるのではないだろうか。
最近、エムシャーパークの批判がドイツの雑誌に出ていた。産業が中心の土地ではあったが、部分的には農地もあり、その農地についてはないがしろにされていたのではないかと言う記事である。北九州市に農地がどれほどあるかは分からないが、もしあるとすれば、農地も環境問題を考えるには非常に大事な要素で、全体を考えるときにそのことも加えていくべきだと思う。
尾島 俊雄
バート君が実は学位論文で、産業革命の欧米と日本の比較を書いており、そして産業革命からの都市化の時間のずれを合わせると、やはり欧に百年間日本は後れました。しかし、エムシャー、ピッツバークという、ヨーロッパやアメリカが転換にまた三〇年間先駆していることを学ぶべきではと思います。しかしそのまま学ぶべきかというと、産業革命を日本がそのまま学んだのはなく相当早く変換させたのと同じように、そのまま学ぶことではないかもしれないけれども、大変学ぶべきものであることは確かだと思う。
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