| >討論会 01 02 03 04 |
| ■討論会 |
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| 西日本総合展示場新館会議室 |
| コーディネーター 尾島 俊雄(早稲田大学教授) パネラー 井手 久登(東京大学名誉教授) 藤沢 寿郎(INAX取締役) 中村 良三(西武建設専務取締役) 上山 良子(上山良子ランドスケープデザイン研究所所長) 曽宇 泰子(長岡造形大学教授) デワンカー・バート(早稲田大学理工学総合研究センター講師) |
| 尾島 俊雄(早稲田大学教授) この分野の産業構造の転換に伴って、今後は観光と研究といったことを大きな柱にした第三次産業が考えられる。つまりこれまでは工場があっての都市であったのが、これからは都市そのものが観光の拠点であり、そのものが研究の拠点でもある。また、世界のネットワークをつくらなくてはいけない中で、バート君が景観というテーマを掲げたわけだが、各先生方にはまずそれぞれのお考えをお聞きしたい。 |
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| おじま・としお |
| 井手 久登(東京大学名誉教授) 「景観」という言葉は日本語で大変広い意味を持つ言葉であり、私自身もこの言葉をやや拡大した解釈をさせていただく。もともと独語のLandschaft(ランドシャフト)を訳した人たちは、「景観」という言葉を生態学的に秩序のある一つの地域、といった地域概念として使っていたが、一方英語のlandscapeあるいはsceneryという言葉を訳したグループの方は、ビジュアルな・視覚的に見える景観を意味している。しかし私はこの両方が大事だと思う。 言い換えると、生態学的に一つの広がりをもった秩序ある空間で展開されるビジュアルな姿、が景観という言葉の持つ意味と考えており、前者の方の地域概念と言うときには景域という言葉を敢えて用いて使い分けている。しかしあまり厳密に分けるのではなく、生態学的な秩序をつくりつつ、美しい姿をこしらえていくのが景観というものの持つ意味ではないか。 まず、多様性の重要性に触れたい。多様性とは安定化に結びつく重要な要素で、例えば里山のような空間は生物多様性の高い地域であり、それが人々のふれあいを高める空間としても重要である。そのような、人間の行為が入った空間は、生物の多様性を認識しつつ、それをいかに維持・管理・運営していくかと言うことはこれからの大きな課題になる。 二番目には、生態学用語で「エコトーン(ecotone)」という言葉があり、これは二つの異なった生態系の推移帯、とか移行帯の意味で、建築では「中間領域」「中間体」といういわゆる中間的な役割を持つ空間を指す言葉である。例えば潮干帯がその代表的なもので、生物生産的には高い価値を持っている。 先ほどの話に出てきた洞海湾の開発の歴史とは、いわばこのエコトーン、推移帯をだんだんと潰してきた歴史であって、つくってはこなかった。これからエコトーンを再生していこうというプランは非常に重要な提案だ。 エコトーンとはいろんな空間のレベルを指す。例えば森林と草地の間には「林縁」という空間があり、専門用語でマント群落とかソデ群落と言うのだが、こういうところにも非常に多くの鳥の種類が棲んでいる。それから、川の三面張りを取り払って近自然工法にするのも、私に言わせれば、水と陸地の間にエコトーンを回復させる行為である。あるいは、最近よくできる公開空地も、建物の間のエコトーンを回復させると位置づけるべきだ。また住居地域と工業地域の間にできる遮断緑地、さらに都市の周辺のグリーンベルトも、広い意味でのエコトーンという位置づけができる。こういうエコトーンをつくっていく、あるいは回復させる考え方が生態学的に見た場合にこれからは大事になっていく。 |
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それから三点目に、前から言っていることなのだが、「ミクロ・エコシステム」および「ソシオ・エコシステム」を空間の中で考えていくことが必要である。ミクロ・エコシステムとは、小さく言えば「梅にウグイス」ー一本の木の中にでも虫や鳥が棲んでいるーという小さな生態系のことを言い、例えば街路樹の中に鳥をすまわせることを計画的にやっているフランクフルトのようなところもある。一つの緑の空間の中にも、それなりのエコシステムをつくっていく考え方が必要だと言うことだ。これをさらに社会経済的にまでに広げようと言うのがソシオ・エコシステムで、琵琶湖などがいい例である。 |
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地域ビジョンをつくっていくときの方法として、先ほどのお話に例として出てきた、エムシャーパークのプロジェクトは非常に参考になるのではないかと思う。 また、そこにあるものの論理を大切にしていこうと言うこと。それは緑地をつくるとき、土地のポテンシャルやあるいは生態学的なものをベーシックにして緑化をしていくことでもあるし、たとえば工業地帯であれば、ボタ山などの土地や水の汚染といった、在るものをよく見極め基盤を整えながら、その浄化を進めていくことが大事である。工業施設の整備に関しては、一〇〇年間地域の生活を支えてきた、大事な文化財であるという認識。そういう歴史性を継承する意味で、その場所に在ること、そこにものが残っていること、そういうことが非常に大事だと思う。たとえそこにものを残せなかった場合にも、そこにそういう生産活動があった、という思い起こせるような整備の仕方、そういう方向でやっていったらどうか。 |
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そういう風にそこにあった施設を、あった場所に継承していく、現在あるもので将来に何が残せるか、何を付け加えていくか、そういった歴史性の積み重ねが、結局その地域らしい景観をつくっていくのではないか。それは必ずしもいわゆるきれいな景観というわけではなくともそこに住んでいる人たちがこれは自分たちの景観であって、それを育てていこうと思えるような景観であるべきではないか。 |
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