労働安全衛生


労働安全衛生規則

作業場の騒音による聴力障害,すなわち職業性難聴の問題は,18世紀から指摘され,すでにその頃からその防止には耳に綿を詰めるとよいといわれていた。第二次世界大戦の後,兵士の聴力低下が米国で問題になり,騒音性難聴の規制に関する検討が進められ,1972年には厳しい規制が施行された。国内においても,戦後の早い時期から労働安全衛生規則(以下,安衛則と略す)の中で,体系化された規制が実施されていたのであるが,有害物質等の規制に比べて十分な管理体制がとられていたとはいえないのが実状であった。また,騒音管理に際しての基準となる騒音レベルが明示されていなかったので,その点についての規定が以前から要望されていた。

今回の安衛則の改正は,これらの背景を考慮し,所要の規定を整備するとともに,強烈な騒音を発する場所での作業等に関する規定の整備充実をはかったものである。それに関連して,事業者が自主的に講ずることが望ましい騒音障害防止対策を体系化し,「騒音障害防止のためのガイドライン」が策定された。

ガイドラインの中で騒音測定結果によって管理区分を判定する評価方法が明示され,今後の騒音性難聴の発症の防止に有効なものとなることが期待できる。 安衛則の改正では,測定,騒音作業場の標識の明示防音保護具の使用等の義務は,従来の8作業の屋内作業場が対象となっている。
ガイドラインでは,それらの8作業の屋内作業場の他に52作業の屋内及び屋内以外の作業場を対象の作業場として追加している。その作業の内容によれば,ほとんどの工場が対象になると思われ・産業界にとってはインパクトを受けることになる。ここで52作業が規則の中に組み込まれなかったのは,今回の改正でそれらを明文化して,直ちに測定及び定期聴力検査を中小零細企業の事業者の義務とするのは時期が早く,ガイドラィンの中で指導をしていくことが先決であるという考えからである。非公式ではあるが,数年後には定着の程度を考慮して規則化したい意向も出されている。したがって,事業者は労働省の意向を理解し,できるだけ早い時期に騒音陣害防止計画を確立して,騒音性難聴の発症の防止に着手することが望まれる。


平均聴力レベルに基づく管理区分
平均聴力レベル区分措置
高音域会話音域
30dB未満30dB未満健常者一般的聴力管理
30dB以上

50dB未満    

要観察者(前駆期の症状が認められる者)     第K管理区分に区分された場所等においても防具保護具の使用を励行、そのほか必要措置を講ずる。
50dB以上30dB以上

40dB未満

要観察者(軽度聴力低下のある者)
40dB以上要管理者(中度以上の聴力低下のある者) 防音保護具の使用の励行、騒音作業時間の短縮、配置転換、そのほか必要な措置を講ずる。


代表的な騒音対策の方法
分類方法具体例
1.騒音発生源対策発生源の低騒音化低騒音型機械の採用  
発生原因の除去給油、不釣り合い調整、部品交換等
遮音防音カバー、ラギング
消音消音器、吸音ダクト
防振防振ゴムの取り付け
制振制振材の装着
運転方法の改善自動化、配置の変更等
2.伝播経路対策距離減衰配置の変更など  
遮蔽効果遮蔽物、防音塀
吸音建屋内部の吸音処理
指向性音源の向きの変更
3.受音者対策遮音防音監視室  
作業方法の改善作業スケジュールの調整、遠隔操作など
耳の保護耳栓、耳覆い


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