CHAP1
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建築音響と波動方程式
弾性体の中を伝わってゆく波動を音あるいは音波と呼び、建築音響の分野では通常、人に聴覚を生起させる20から20000Hzの周波数の空気中の音(空気音)を指す。
1.1 室内の音場
- 室内音場の特徴
障害物のない空中や野外などでは、音源から出た音波は遠くに広がり次第に減衰していく。このような音場は単純だが、室内で音源から出た音波は、壁、天井、床で吸音あるいは反射され、それらが重なり合い、干渉あるいは回折し、非常に複雑な音場を生じる。従って、建築音響における音場制御や音響設計などの際には、このような音に関わる様々な現象を十分理解しておく必要がある。
- 幾何音響学と波動音響学
室内の音場を厳密に解析するには、音の波動性を反映した波動方程式に境界条件を入れて解かねばならない。しかし現実の建築空間の境界条件(壁や床などの形状・音響特性)は複雑なため、解の単純な導出が一般に困難となる。
ところが、波長に比べて充分大きな室内空間においては、その周壁が複雑であっても、幾何音響学によれば単純明快に音場を解析することができる。但し、幾何音響学を誤りなく適用するには、波動音響学を充分理解しておくとともに、「波長に比べて室内空間が充分に大きい範囲」で「音波の波動性を無視しエネルギー性のみ考慮している」という限界を常に認識しておく必要がある。