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5.3 残響

室内の音源から音を出すと、図のようにある程度の時間の後、数多くのモードが励起され定常状態に達する。その後音源を止めても、音はその瞬間になくならず次第に減衰していって聞こえなくなる。このように音源が停止した後に室内に音が残る現象を残響(reverbevation)という。

残響を量的に表わすには残響時間(reverbevation time)を用いる。これは室内の平均エネルギ密度が定常の値から、60dB減衰するのに要する時間と規定されている。
残響時間Tは室の容積V(m3)が大きいほど長くなり、吸音する材料や物体が多いほど短くなるということをW. C. Sabine が見い出した。以下、簡単に一般的な残響式を整理しておく。

  1. Sabineの残響式

  2. となり、ここで比例定数k=0.16,Vは室体積、Aは吸音面積を表わす。
    吸音面積Aは、室内表面積S(m),平均吸音率αとすれば、
    で表わされこれを吸音力または反に吸音とも呼ぶ。室内壁面は一般に多くの異なる材料でできているから、吸音率αiの面積をSiとして
    となり、また室内に家具や人体など、表面積を決めにくい物体がある場合は個々の物体の吸音力をAj(m)として
    室内の総吸音は
    となる。
    Sabine の残響式は、吸音力の小さな残響時間の長い室ではよく実験値に一致するが、吸音力の大きい残響時間の短い室では、実際より大きな値となる欠点がある。

  3. Eyring の残響式

  4. Sabine  が音は連続的に減衰すると考えたのに対して、C. F. Eyringは、階段的に減衰すると考え、また、完全吸音の室の場合でも矛盾(完全吸音の室ではRT=0となるはずだがSabineの式では0にならない。)を生じない次の残響式を導いた。現実には、音は壁に衝突した時、壁の吸音によりエネルギーが減じられる。従って、この残響式はより現実的な仮定に準拠したものと考えられる。

  5. Knudsen の残響式

  6. 空気には吸音作用がある。特に、大空間を行き来する音波を取り扱ったり、高周波数領域の場合にはその影響を無視できない。Knudsen は、Eyring の式へ空気の吸音を取り入れ次の残響式を導いた。
    ここでmは、空気吸音による減衰率を表わす。減衰率は、図のように温度と湿度に関係する。
以上が建築音響で一般的に用いられる残響式であるが、これらの適用は、厳密には、音場が「完全拡散」の仮定を満足する場合に限られる。また以上の式では、「全てのモードが同一の減衰率を持つ」と仮定したことになっている点に注意すること。

実際の音場では、室の短辺方向へ伝搬する音波はそれ以外の音波に比べ同一時間内に壁に衝突する回数が多くなる。主たる吸音現象が壁面で生じているとすれば、この方向のモードは他より高い減衰率を持つと考えるのが自然であろう。